小P連卓球大会を終えて〜前編〜傍観者、差し入れに超絶悩む。
現在後期高齢者である私の父は、その世代の多くの男性の例に漏れず熱狂的なG軍のファンである。
G軍が負ければその日の夕餉はお通夜、勝てばご機嫌で酒量が増える…という、子どもにとってはいささか迷惑な趣味の持ち主だった。
今思えば父以外全員女(飼い猫ですらメスだった)というアウェイな中にあって、昭和文化にどっぷり浸かっていたくせに下ネタのひとつも言わず、一度は完全にフラれた母を「人生かけて書いた渾身の手紙一通」という超絶クラシックな手法で振り向かせ、結婚にこぎつけてからは母ひとりをひたすら愛し続けた…という、トータルで見れば相当以上にいい父・良き夫なのであるが、オレンジ色のユニフォーム(当時は白だったが)が父いわく「情けない負け方」をするたび、食卓に罵声が飛ぶのだけは勘弁していただきたかった。
「辞めちまえ!あの監督!」「なんであそこでアイツを出すんだよ!打たれるの分かってただろうに!!」
…等々、酒も入りどんどん大きくなる父の声を聞くたび、恋女房?の母は呆れながらこういうのが常だった。
「そんなに言うなら、あなたが監督やったらあー?」
その後私はある日ふとテレビで見かけた、この世のものとも思えぬほど美しい演技をする氷の上の妖精に恋をした。彼女は私よりもかなり年下で、かつ同性であったが、あれは「恋」だったと今でも思う。
彼女は演技や姿かたちだけでなく、心根そのものがとてつもなく美しかった。とてつもない才能の持ち主だったが、あまりの突出した才気ぶりに、彼女の翼を折ろうとするものが何人も何人も現れた。味方からすら背後から何度も撃たれ、ごく普通の人間ならば絶望の底から這いあがれないような状況の渦中においても、その美しい人はほんとうにひとことも愚痴を言わなかった。10年以上の現役生活のあいだ、ただのひとことも、である。
幼いころから夢に見てきた大舞台の場で、人生最大の目標が手の中から零れ落ちた直後すら、彼女は泣いてこそいたが、言い訳ひとつ零さなかった。そんな彼女の口癖を、今も覚えている。
「次の試合は、ノーミス目指して頑張ります」
その人が公の場で語ったのは、「自分がもっと向上すること」だけだったのだ。
野球好きの父と浅田真央さん。
まったく異なるふたりであるが…この二人から学んだことがある。
「スポーツは、観る者と実際に『やる』者とのあいだには、とてつもなく大きな壁がある」
「どれだけ愛していようと、『観る』者にできるのは祈ることだけ。試合の場に送り出してしまったら、こちらはただの傍観者にすぎない」
実家を出て父のG軍への罵声も聞こえなくなり、天上の演技を気軽に観る機会もなくなった後、私はスポーツを観ることそのものを自然に辞めた。子どもが産まれてテレビはEテレしか見られなくなった、いえ、小さな暴君にチャンネル権を奪われた…という事情もある。
そしてもともと体育の評定で「2」がつくほど運動音痴な私は、もはや一生、スポーツとは縁遠い人生になるはず…だった。

けれど2026年1月18日土曜日、私はスポーツウェア(8年くらい前に買ったのを前日慌てて引き出しの奥から引っ張り出したもの)を着込み、「新宿スポーツセンター」でひたすらに写真を撮りまくっていた。新宿区小P連広報委員会の委員長として…である。
その日は小P連、新宿区卓球連盟の皆さん(ありがとうございます!)、そして新宿区教育委員会の方々のご協力のもと、「新宿区小P連卓球大会」が開催されていた。
私をスポーツから引き離した「子ども」が、私を再びスポーツに結びつけたのだ。
私はそれを「皮肉」とは思わなかった。もしひとことで言い表すならば…。そう、「僥倖」だと思っていた。
我が校卓球部のメンバーには、日頃から超超超超お世話になっている副校長先生、先生方をはじめ、私がママ友の粋を超えてリアル友達(…と思っているのは私だけ??)であるメンバーが複数出場していた。
…会場に向かう途中、久しぶりにあの「私が愛した美しい氷の妖精さん」の試合前のような高揚感と緊張感の入り混じった感情が戻ってくるのを感じていた。
だって何しろ、今度はあの方の試合前とは違うのだ。テレビやストリーミング(海外試合で時差があるときは、無理やりインターネットで生中継を見ていた。おかげでプロキシにちょっとだけ詳しくなったのは内緒である)の画面の前で、ひたすら祈ることしかできなかったあの時とは違って、今度は愛するメンバーに声をかけることができるのだ。
なんなら差し入れだってできてしまう!!(浅田選手の現役時代は、恐れ多すぎて手紙ひとつ送れなかったチキンぶりだった)
差し入れ。差ーしー入ーれー!!何がいいのーーーーー!?
…普段スポーツを全くやらない人間が困るのはこういう時である。
卓球に必要なブツってなに??スポドリとかは好みがあるだろうし…。
困り果てて「マラソンが趣味すぎて家庭運営への貢献が疎かになり、夫婦仲が超険悪になっているけれど部屋が狭すぎて家庭内別居もできない夫」に助けを請う、という暴挙に出たくらい私は困窮していた。脳筋夫の答えは…
「水ならいくらあっても困らないんじゃね?」
…もういい。オマエに聞いたアタシのミステイク。なんならオマエと結婚しちまったアタシの大失敗。家事も育児もまっっったく役に立たんのだからこんなときくらいちったあ役に立ってくれや!!ああ、オマエの最愛マザーに結婚前「あなたの家系、病気はないの?」ってデリカシーゼロ人としてアウト令和の今なら全国民ドン引きレベルのお釈迦様もビックリな質問された時、とっとと踵を返して逃げ出すべきだったぜベイベー!!
…と、頭のなかから間歇泉のごとく湧き上がるライムを踏んでいるとき、散らかりまくったリビングの棚(薬やら夫の趣味のフィギュアやらその他もろもろが入り混じってる)にふと見えたものがあった。
我が夫が(ただの趣味のくせに)マラソン大会に出るとき、必ずAmazonのセール(ポイントアップ時に限る)で買って出走直前こそこそ飲んでいる、ブルーのモノが。
ア〇ノバイタル。
…アミノ酸3,000㎎?ロイシン?アルギニン?クエン酸ならなんとかわかるけど…。
一応カロリーも100kalはあるらしい。少ないけど午前の予選トーナメントの結果いかんによってはお昼食べてる時間もあるか分からないよね。よしこれで!!
24個入り、カートに入れる。ちょっと多いけどまあいいや。いざとなったら敵に塩を送って恩を売ればいいよね!
でもこれだけじゃ寂しいよねえ…。カロリー…疲れが一気に取れて、みんなが元気になるもの…。…ここでかの大文豪、坂口安吾先生を思い出したけれど、もっと合法的なブツじゃないと出場停止(それも永久に)になっちゃうよ。そうかあれだ!!
完全ワンオペの長すぎた正月休み。ストレスMAXで「この家にいる大人は私だけなのか!?オマエの右手はスマホが生えてるのか!?実 家 に 帰 るわ(永遠に)」と安普請の薄い壁と近所迷惑をものともせず夫にマジで叫んだ翌日、吉祥寺で10年ぶりくらいにご機嫌取りで飲まされたアレ。
チョコレート!!なんかずいぶん値段が上がっちゃって、「…都会に染まってしまったわね、あなた…」と、木綿のハンカチーフ噛みしめたくなるくらいお高かったけど、やっぱめちゃくちゃおいしかったあの色とりどりのキャンディ包みのチョコレートー!!
幸い俺には貯めまくったAmazonポイント様が。ここで使わにゃ漢じゃない、全ポイントが火を噴くぜーーーーー!!!
…あとはラブレター。今なら書ける。もうあの頃の私ではない。己の字のきったなさに絶望しながらなるべく丁寧な字で書くわ!!マジ、子どもの頃から「ユニークな字だね」としか言われたことないけど、我が校の卓球部に寄せる…好意だけは本物だから!!
…と、やっと決まった差し入れをお気に入りのミッフィーさんのバッグに入れて、ようやくスポーツセンターにたどり着いたのであった。
(超近隣民のくせに、一度は行ったことがあるくせに、スポセンに行く途中迷子になったのは脳筋夫には内緒である)

楽天の某店でセール中だったミッフィーさんバッグ。子どもと奪い合いになったがそこは大人の力を見せつけ完勝した。さすがにゼリー飲料24個はかーなーりー重かったが、皆さんに喜んで頂けたので中の人の腕の痛みなどどうでも良し!

当日朝、なぜか知らんけど「戸山公園の中を通らないで新宿スポーツセンターに行けないかな!?」…と、神の啓示が降りてきてしまったのですが、どう考えても無理でした(皆さん、極度の方向音痴ってこういうことをふと考えて迷子になるのですよ。幸い良い天気で…本当に良かった…)
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